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記事: 河童と林檎

河童と林檎

河童と林檎

先日の雪の夜、帰宅した私は引き千切る様にカッパを脱ぎ捨て、熱湯で指先を暖めると携帯電話の無事を確認するためズブ濡れになったポケットから携帯電話をつまみ出しボタンを押しました。
友人から一件のメールが届いています。
” TVつけてみな ” 
その時の私と言えば、無惨に散らかされたカッパをハンガーに掛け、水ぶくれになったガントレットグローブを絞り、ヘルメットに積もった雪を払い落とし、とやらなければいけない事山積みでとてもとてもTVどころでは無かったのですが、わざわざ連絡をよこすくらいですからやはり視た方が良いかなと思い直し電源を入れました。
なるほどこれの事だな。
TV画面に映し出されたのはキャップを被った年配の男性が林檎を片手に何やら熱く語っている場面。
そのTV番組は、世の中の相反する様々な事柄を取り上げ、それらの矛盾を直接対決により白黒ハッキリさせていく、といった趣旨のバラエティー番組で、例えばある金属製造メーカーが開発した現在最強とされる金属に対し、ドリル製造メーカーのやはり最強ドリルで穴は開けられるのか?などそれらを開発した人、或はそれらの技術を身につけた人同士が互いにその”モノ”或はその”腕”を持ち寄り競い合い決着をつける。と言った具合に構成されています。
そしてその夜のお題は、林檎農家に生まれ育ち現在林檎農家を営む生粋の林檎職人が、本物かと見紛う程の精巧な食品サンプルを作り続けるサンプル職人が特に得意とするニセモノの林檎を、本物の林檎と並べた時見ただけで判別出来うるのか?と言った内容でした。
先ほどのキャップに林檎の男性はこの対決を前にした林檎職人で、”見破りますよ絶対に”とキッパリ断言している所だったのです。
興味をそそりましたが、”作り物で人間の目を騙すのにも限界があるだろうな” と始まる前から私の立ち位置は林檎職人寄りで決定していましたので煙草に火を着けガントレット絞りを始めました。 なにしろ林檎一筋で生きて来られたであろう人間の目なのですから。
しかし私の安易な予想は一蹴され、ニセモノの林檎が欺き通す事になったのです。
その結果に少なからずショックを受けましたが、考えてみればニセモノの林檎を作ったのもやはり職人、サンプル作りを生業にしているプロフェッショナルがその目で洞察し、その手で造作した林檎を指しニセモノ林檎と表現する些かデリカシーに欠ける番組制作者に対し”これはニセモノ林檎などでは無く、食品では無い方の林檎だろう”などと八つ当たり気味の屁理屈で予想を外した自分を慰めて見ましたが、TV画面の中でサンプル職人自らがニセモノ林檎と口にしましたので結局この対決、ニセモノと言う言葉に騙された私の一人負けとなりました。
ともあれ林檎にしろ食品サンプルにしろ、取り立てて興味の対象ではありませんでしたが、様々な場面で日本人の物作りの技が活躍している事を改めて知り鳥肌が立つ思いにさせられました。
そしてサンプル林檎を制作したメーカーが、浅草かっぱ橋道具街に直売店を出していると番組で紹介されていましたので久しぶりに散歩でもしてみるかという気になったのです。
と言うのも浅草名物の一つかっぱ橋道具街は、我がヘッドファクトリーのあるカドヤ本社から目と鼻の先、歩いて2分の所にその入り口は位置します。
道具街自体は、食品、厨房関係の設備、道具を扱うお店が主ですので革ジャン屋との接点はほぼありません、それでも何かしら流用できる道具は無いものかと探索しては無駄使いをするといった事を頻繁に繰り返しておりましたので徒歩圏内をほっつき歩く事も最近では無くなりましたが、少し足を延ばせば衣料品関係の問屋も点在するので、オーダーメイドやカスタムリペアなどの仕事を頂くと、お客様のイメージに合致するバックルやボタンを手に入れる為かっぱ橋周辺をよくバイクで走り回っております。
およそ生活に必要な物資は全てかっぱ橋界隈で手に入ると思われる正に道具の街、そして職人のうろつく街。
カドヤ本店にお越しのお客様、革パンの裾丈詰めが仕上がるまでの少しの時間、折角ですから道具街を散歩されてみては如何でしょうか?

レザージャケットの専門メーカーカドヤ
かっぱ橋道具街入り口。

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専用道具にはロマンを感じます。

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圧巻のフルメタル。

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プロポーションだけは過剰に良い貫禄不足なゴールドガッパ

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いつでも絵になる日本の脚。

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かっぱ橋も最近はコジャレて来ました。

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これだけ並ぶと有り難みも薄れます。

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蕎麦屋では無く看板屋。

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オーダーも出来る焼き印。

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そのまま。

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私の行きつけ。

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宝箱。

そして、

乾杯しませんか?


【市島】